菅江真澄『かたゐ袋』より

鳩寺・猫寺

 駿河ノ国の横内というところにある慈元寺の僧は、誦経のときを除いて、一日じゅう木彫りの鳩を作っていた。
「鳩ばかり彫って、ほかの鳥を作らないのは、どういうわけですか」
と人が問うと、
「いい加減な気持ちでやるのではない。鳩の形を千あまりも作れば、その中の一つが飛行することがあると聞いたから、それを願っているのだ」
と答えて、わずかな暇も惜しんで彫り続けた。
 最初に作ったのが鳩の杖で、以来おびただしく作って軒先に並べたので、人はそこをもっぱら「鳩寺」と呼んだ。

 この僧は逸物の猫を七八匹も飼って、朝に夕に芸を仕込んでいた。
 いろいろな着物を着させ、紅の布を頭にかぶらせて、「踊れ踊れ」と囃したて、猫どもに踊らせて楽しんでいたので、人はまたそこを「猫寺」とも呼んだ。
あやしい古典文学 No.792