人見蕉雨『黒甜瑣語』初編巻之四「棚谷家の怪事」より

小人武者

 わが家の老乳母の兄に、棚谷某という者がいる。その義父にあたる人が、秋の夜、ひとり座敷で過ごしていたときのこと。
 畳の間から、筆の長さくらいの小人の騎馬武者が三四人出てきて、あたりを駆け回って戦った。すかさず手元にあった煙管で叩くと、みな消え失せた。
 しばらくして、また一人出てきた。きらびやかな甲冑を身に着けて、大将軍の風格がある。
 その小人武者が弓に矢をつがえて引き絞ったので、また煙管で叩いた。しかし一瞬遅かったか、眼を射られてしまった。

 棚谷某の義父は、その時から一眼を失った。
 矢で射られたと思ったのは錯覚で、おそらく煙管で自傷したのだろう。気鬱に害されて怪を見たのであろうか。
あやしい古典文学 No.801