上野忠親『雪窓夜話抄』巻之二「人の執念小蛇となりて顕はれし事」より

ああ熱い

 その昔、某国の某寺で美しい寺小姓を召し使っていた。
 禅堂で修行中の遍歴の僧が、この小姓に恋慕して、思い焦がれるあまり病の床に伏すにいたった。

 あるとき小姓が自室の竹窓を見ると、小さい蛇が格子の上を這い歩いていた。
 ちょうど煙草を吸っているところだったので、火のついた煙管の雁首で子蛇の頭を押さえたところ、即死して窓の外へ落ちた。
 同じ時、禅堂の病僧はにわかに頭部が焼け爛れ、
「ああ熱い…」
と一声、悲しく呻いて息絶えた。

 この話は、『愛執の念はかくまで恐ろしい』と興禅寺の四代住職 寂浄和尚が語ったもので、病僧と同じ禅堂で修行して同じ寮に住み看病もした提宗和尚から聞いたそうだ。
 話の中に寺の名も僧の名も出たので、書き記しておくべきだが、なにぶん古いことで忘れてしまった。
あやしい古典文学 No.803