上野忠親『雪窓夜話抄』巻之一「死人に鼠の付たる事」より

鼠のように

 延宝年間のこととかいう。鳥取の日香寺に、一閑という僧が住職を務めていた。
 ある日、死人が運ばれてきて弔いを行ったが、わけあって寺に一夜預け置き、次の日に親もとへ引き取るという話になった。
 そこで棺を本堂の隅に置き、通夜の番をつけた。

 夜半過ぎ、どうしたことか、死人が棺桶の蓋を破って立ち上がった。じろりじろりと周囲を睨みまわす様子なのを見て、番の者は肝を潰して立ち騒ぎ、住職のところへ走ってしかじかと告げ知らせた。
 住職は強気の人で、
「たまには、そんなこともあります。騒ぎなさいますな」
と言って、傍らに立てかけてあった棕櫚箒(しゅろぼうき)を提げて本堂へ向かった。
 本堂では、すでに死人は棺から飛び出して、堂の横手の板戸に登って桟を伝い歩いていた。そこから障子に移ろうとするとき、住職が飛びかかって箒で二つ三つ叩くと、ばたっと落ちて床に倒れ伏した。
 死人が動かなくなったので、皆で運んでまた棺に納めた。

 後日、人が一閑に、何事があったのか尋ねると、こともなげに、
「死人に鼠がついたのですよ」
と応えたという。
あやしい古典文学 No.805