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浅井了意『新語園』巻之三「首ヲ喪フテ馬ヲ盥フ 天中記」より |
首を斬られて |
長安の花敬定は、唐の国の武将であった。 至徳年間、将軍 崔光遠に従って蜀地方に進軍し、反乱の首魁 段子璋を討つという大功を挙げて、嘉祥県の長官に任ぜられた。 後にまた、侵攻してきた賊を討伐する戦いにおいて、ただ一騎で敵勢に馳せ向かったが、武運つたなく首を斬り落とされてしまった。 しかし、首から下は落馬せず、矛(ほこ)を肩に担いだまま自陣に帰り着いた。 そのまま近くの川へ行って、馬を洗った。同じ川で洗濯していた女が、呆れて言った。 「のんきに馬洗ってる場合じゃないでしょ。頭がないわよ」 それを聞くやいなや、花敬定は倒れて死んだ。 土地の人々は、遺骸を谷のほとりに葬り、廟を建てて祀った。 杜甫の詩に「成都ノ猛将、花卿トイフ有リ、……」とあるのは、この故事をいう。 玉泉の行簡禅師は、天台智大師の門人であった。 あるとき群盗に遭遇して、首を斬られたが、ひるまなかった。 「よくもやったな!」 禅師は、頭を拾って両手で持ち、うなじの上に据えると、疾風のごとく盗賊を追撃した。 その後、首はうまくつながって、死ななかったそうだ。 |
あやしい古典文学 No.809 |
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