柳沢淇園『独寝』より

塩竜

 幹何遠が『春渚紀聞』に書き残したところによれば、「塩竜」という体長三十センチメートルばかりの竜を、蛮国で飼い育てているらしい。
 この竜を銀のたらいの中に置き、玉の連ねたのを添える。餌として塩を与えると、塩が大好物なので大いに食う。よくよく塩を食わせ、しばらく待つと、鱗の間から塩を出す。その白いことは雪のようだ。
 この塩を取り蓄えておいて、女との情事の前に、小さじ一二杯分を酒で飲む。大変な勢いで陰茎が勃起するそうだ。
 蔡元度という中国人は、塩が貯まるのを待ちきれず、竜を抱えて嘗め回したので、たまらず竜は死んでしまった。以後は死骸を塩漬けにして、その塩を採って服用したらしい。

 この説は『本草綱目』にも見えるし、『三才図会』にもある。
 塩竜は、今は蛮国からあまり渡来しなくなったからだろうか、ほとんど話題にならないので、ここに書き付けておく。
あやしい古典文学 No.813