浅井了意『新語園』巻之三「落頭民 ■涯勝覧」より

落頭民

 中国の南方には、「落頭民」と称される種族がいる。
 彼らの頭は、夜になると胴体を離れて飛ぶ。耳を翼のように羽ばたかせて、いたるところを翔びめぐる。明け方には必ず戻って、胴体に元どおり付く。別名を「虫落民」というと、『博物志』に記されている。
 『捜神記』には、呉の朱桓将軍宅の女中は、毎夜臥して後に頭が飛び、天窓から出入りしたとある。

 占城国には、「尸頭蛮」というものがいる。
 もとは人家の妻であったが、眼に瞳がなく、人々は奇異に思っていた。
 この女も夜寝ると頭が胴を離れて飛び去り、家々の小児の糞を食ってまわる。曙に戻ってきて、元どおり胴に合体する。
 そのことを知った夫が、頭が飛び去って後に胴を別のところへ移しておいたら、戻ってきた頭は惑い狂って三度まで地に落ち、胴のほうも喘ぎ苦しんで今にも死にそうだった。胴をもとの場所に戻すと、頭が来てくっ付き、やがて何事もなかったように目覚めた。
 占城国では、「もしこのような者があれば、官に通報すべし。隠すときは、その一家ことごとくを罰する」と法令にあるという。
あやしい古典文学 No.831