『訓蒙故事要言』巻之八「狗人国」より

イヌ男の国

 『五代史』によれば、中国北方の狗人国の男は、人身犬頭で、体毛が長い。衣服を着ることはなく、猛獣を狩って毎日を送っている。言語は犬が吼えるようで、でたらめに聞こえる。その妻は普通に人間で、中国語をしゃべる。
 男を産めば犬となり、女を産めば人となる。その男女がまた結婚して子をつくる。洞穴に棲んで、男は生肉を食い、女子供は火を通したものを食う。

 昔、中国の人が狗人国へ行って犬男に捕らわれ、まさに殺されようというとき、その妻が憐れんで逃がしてくれた。
 妻はその人に箸十数本を持たせ、
「十余里走るたびに、この箸を一本ずつ捨てなさい。」
と教えた。
 追ってきた犬の夫は、箸を見てわが家のものだと気づき、必ずいったん咥えて戻るからだ。このようにしないと、けっして逃げ延びることはできないそうだ。
あやしい古典文学 No.840