中村乗高『事実証談』巻之四より

子の雪駄

 文化元年のことだ。
 三河上郷の吉太郎という者は、妻と幼子を国もとに残して江戸屋敷で奉公していたが、ある夜、妻の夢に現れた。
「うちの子の七五三の祝いも近いから、雪駄を買ったよ。仏壇の下に入れておくからな。」
 そう言うと見て夢から醒め、妻はもはや眠られず、夜が明けるのを待ってこのことを人に語った。

 もしや夫の身になにかあったのではないかと不安な日々を送るうち、はたして『吉太郎は江戸屋敷にて病死した』との早状が届いた。
 悲しみにくれながら日数を数えてみると、あの夢を見た夜に死んだとの知らせであった。
あやしい古典文学 No.846