唐来参和『模文画今怪談』より

泣く子の赤い口

 赤坂あたりに住む浪人が、ある夜更け、青山辺を通ったとき、三十過ぎくらいの女が赤子を抱いて寄ってきて、
「どうかこの子を、少しのあいだ抱いてやってください。」
と頼んだ。
 何気なく言われるままに子を抱くと、女はかたわらの寺の内へ入ってそれきりで、抱いた子は次第しだいに重くなった。しきりに泣き立てる口の中が、火のように赤い。
 もはや堪えがたくなったとき、やっと女が戻って、一礼して子を受け取り、また寺に入ると見えて、すうっと消え失せた。
 これはどうしたことだ。
 はなはだ怪しく思って、塀越しに寺の中をのぞき見ると、そこには数万の赤子が群がり出て、激しく泣き叫んでいた。その口はみな、炎のように真っ赤だった。
あやしい古典文学 No.847