唐来参和『模文画今怪談』より

あまりにも毛深い遊女

 ある人が、石山寺に参詣しようとして道に迷った。
 山を越え谷を渡って、行けども行けども本道に出ない。はや日が暮れて心細さがつのったとき、思いがけず麓のほうから三味線の音が聞こえてきた。
 不思議に思いながら、岩を伝い、藤蔓にすがって麓へ下ると、そこは遊女町だった。
「今夜はここで夜を明かそう。」
 揚屋に上がって遊女を買い、太鼓持ちにいざなわれて床に入った。
 ところが、相手の女が全身あまりにも毛深い。それもそのはず、人ではなくて猫だった。あらためてよく見れば、店の女はみな猫なのだった。
 仰天して逃げ出すと、猫遊女どもが追ってきて、石を投げつけ、砂をかけた。
 とにかく逃げるしかない。懸命に走って、川を渡ったところで恐る恐る振り返ったら、さいわいにも、もはや猫の姿はなかった。

 その人は、逃げおおせはしたが、石をぶつけられたところに、やがて猫の毛が生えた。
あやしい古典文学 No.848