石塚豊芥子『街談文々集要』巻二「椿樹生手形」より

肉っぽい枝

 文化二年六月に届いた上州よりの書状によれば、新田郡太田宿より一里ばかり東、新舞村の幸助方の庭の椿に、手のごときものが生えたという。書状にはその図も記してある。
 その手を見た者の話では、触ると肉っぽく柔らかで、血色のいい肌色をしているうえに、爪まであった。後には次第に老化して黒ずみ、ついには凋んで落ちてしまったそうだ。
あやしい古典文学 No.850