進藤寿伯『近世風聞・耳の垢』より

茹で殺し

 宝暦十年二月末の出来事だ。

 わが安芸国の加茂郡に、どういういきさつからかは知らないが、継子(ままこ)の兄妹を養っている夫婦がいた。夫婦はある夜、寝床で相談して、『兄のほうを山へ連れて行って殺し、妹は家の中で殺してしまおう』と決めた。
 その話を、まだ寝入っていなかった兄が聞いて、翌朝、地元の寺へ逃げ込み、耳にしたままを語った。住職が急ぎその家へ行ってみると、妹のほうを大釜で茹でいるところで、子はすでに熱湯の中で死んでいた。
 ただちに庄屋へ届け、その場にいた女房を捕らえた。夫は早朝から山仕事に行ったというので、捜索したが行方が知れなかった。なんでも夫は、子を茹でながら、その湯で飯も炊き、女房にも食わせて出かけたのだそうだ。
 兄妹は十一歳と六歳。兄はそのまま寺の世話になることとなった。
 三月上旬、女房はこの近辺の牢に入った。
あやしい古典文学 No.854