森春樹『蓬生談』巻之四「蝮蛇を食ひて美味と云ふはひが事成る事」より

マムシはまずい

 昔から粗野な人々は、マムシをうまいといって食う。
 しかるに最近、隣国筑後の久留米では、町人も武家もこぞって、争うように食っているそうだ。

 あんまり皆が美味だと言うので、私も試しに少し食ってみた。
 すごくまずかった。肉の見た目も味も臭みも、海中の蛇首魚とよく似ていた。とてもじゃないが、食えたものではない。
 すべて品性劣る者の賞味するところは、必ず下品の味であり、まことの美味ではないのだ。
 久留米の人は、なんでこんなものを喜んで食うのだろう。ウナギなどとは比べものにならない酷い味なのに。
あやしい古典文学 No.862