森春樹『蓬生談』巻之二「蟾蜍はあやしきもの、又その名の事」より

ヒキガエルをいじめるな

 蟾蜍(ヒキガエル)は怪物である。
 わが郷里では、小児が昼に蟾蜍を弄んで打ち叩きなどすれば、夜、その蟾蜍が枕元に来て、寝た児の頭を掻くといわれている。
 これは事実だ。しかし、必ずそうなのではなく、百に一つは来るということだ。

 蟾蜍に唐辛子を食わせるとどうなるか。蟾蜍は水辺に行って、おのれの臓腑を吐き出して水にさらし、唐辛子を流し去ってから、また呑みこむのだ。
 また、ある人が試しに鳥打ち銃の玉を食わせたら、その夜、腹中に硬く小さい物があってひどく腹痛する夢を見た。目覚めてのちも、まだ少し痛みがあったという。

 「ヒキガエル」という名は、これを遠くに捨てても帰ってくることと、遠くにある食物を居ながらにして引き寄せて食うことから、「引き」「帰る」の意味で付いたのだそうだ。
 蟾蜍がものを引くのは見たことがないけれども、舌がはなはだ長く、十センチ以上向こうに止った蝿などを、身を動かさずチラリと出した舌で捕らえて食うのは、何度も見た。捨てられても帰ってくるというのは、まったくそのとおりだ。
あやしい古典文学 No.870