森春樹『蓬生談』巻之一「南瓜の中に蛇の生る事」より

踊る南瓜

 筆者の父の話によれば、かつて、わが町の外れに惣大夫という大工が住んでいた。
 惣大夫が南瓜を育てて、蔓を家の軒に這わせたところ、はなはだ大きくて平たい実ができたので、よく熟してから採り、炉の上に吊っておいた。翌春、煮て食おうと南瓜を下ろして割ったら、中から二尺ばかりの蛇が出てきた。どうして蛇が中に入ったのか、誰にも分からなかった。

 しかるにその後、父は小倉領の大橋へ行って、同様の事件のことを耳にした。
 その春、某村の百姓がかまどで火を焚いたら、上に吊っておいた南瓜三つが一斉に動き出し、特に活発に動いた一つの縄がついに切れた。下に落ちて割れてもなお動く南瓜をよく見ると、果肉の中に小さな蛇の頭が生じていた。体は蛇になりきらない果肉であったが、それも頭とともに蠢動していたという。
 残りの二つも下ろして割ってみるに、やはり果肉が動いていたので、みな川に捨てた。どういうことかとあれこれ考えたが、かまどで焚いたのが胡麻の殻だったほかには、特に変わった点もなかったそうだ。
 これはまさしくわが目で見た人から聞いたことで、そのとき父は、惣大夫の南瓜の場合も、蛇が入り込んだのではなく果肉から生じたのではないかと思ったのである。

 筆者が考えるに、ずっと昔からこうしたことはあったのであろう。
 『宇治殿の前で、安倍晴明が、瓜に毒があると指摘した。僧正観修が祈祷すると瓜が躍りだしたのを、医師の丹波忠明が二か所に針を打ち立てて止め、源頼光が刀で真っ二つに割ったところ、中から目に針の刺さった蛇の、頭を刎ねられたのが出てきた。』という話にも、この類のいわれがあるのではなかろうか。
あやしい古典文学 No.871