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『訓蒙故事要言』巻之八「此犬人性」より |
遺恨犬 |
中国・唐代の政治家であった裴度は、無類の愛犬家だった。外泊先であれ宴会の席であれ、いつも犬を連れて行き、自分が食べたものの余りを、その場で犬に与えて食べさせたりした。 娘婿の李申は、それを見て、 「見苦しいのでおやめになったほうが……」 としばしば諫言したが、裴度は、 「人も犬も似たようなものだ。なんでそんなに嫌がるのかな」 と、いっこうに取り合わなかった。 そんなあるとき、たまたま近くで犬が物を食っていて、李申が諌めるのを見て食うのをやめ、いやな目で李申を睨めつけて去った。 裴度は言った。 「あの犬は人間の気性を持っている。きっとおまえを恨んで仕返ししようとするぞ。よくよく気をつけろ」 李申は、義父が冗談を言うのだと思った。 午後、李申は昼寝をしようと寝室に入って、犬が獲物を狙うときのように身を低くして近づいてくるのに気づいた。 『こいつ、本当に危害を加える気かもしれない』。そんなことを思っているうち、犬は、李申がなかなか眠らないのを見て、外へ出ていった。 李申はそのすきに、衣類や枕などを重ねて人の寝た形にし、自分は物陰に隠れて様子を覗った。 やがて、犬がまた入ってきた。 李申がすでに寝入ったと思って、寝台に跳びあがり、喉笛に噛みついたが、すぐに人ではないと分かって、床に下りた。 騙されたのがよほど悔しかったのだろう。ぶち切れて狂い回り、吼え叫び、ひっくり返って死んでしまった。 |
あやしい古典文学 No.877 |
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