森春樹『蓬生談』巻之二「朝鮮人蝋燭を好て食ふ事、蝋を食物にする国有事」より

蝋燭をくれ

 明和二年の朝鮮使節来朝で、日田郡代殿が備後鞆ノ津へ出役のおり、わが父もお供して行った。
 その鞆ノ津での話だが、使節団の下役人が「ロウソク、ロウソク」と言うので、蝋燭を持っていくと、ニ、三本くれという仕草をするので遣ったところ、それを歩きながらもぐもぐ食ったという。

 国土が変われば、人の腹も自然と異なるものとみえる。
 先年、わが店から長崎の中国人・西洋人に種々の品を送り渡した。その中にあった晒蝋(さらしろう)を、西洋人が「食物蝋」と言ったことがある。
 蝋を食物とする国があるのだった。
あやしい古典文学 No.878