進藤寿伯『近世風聞・耳の垢』より

馬の恋

 宝暦十年正月の事件である。

 京都の大仏辺に栗毛の馬が繋がれていて、その傍らで若い女が小便をしたところ、まじまじと見ていた馬が発情して、女に飛びかかった。
 女は大仏殿の門内へ逃げ込んだ。それを馬が追ってきた。寺の者が門を閉ざすと、馬は門を蹴破って大暴れした末、狂い死にした。
 その後は女も狂気となり、馬の啼き声をして死んだそうだ。
あやしい古典文学 No.880