青葱堂冬圃『真佐喜のかつら』巻之八より

おめでた座敷

 阿部伊勢守の駒込下屋敷に、「おめでた座敷」というものがある。
 何ごとであれ祝い事の前には、誰も知らない御殿女中がその座敷にいるのを見かける。祝い事の予定がないのに見かけることもあるが、そんなときは、必ず予期せぬ慶事が起こるのである。
 「おめでた座敷」に現れる謎の御殿女中は、「おめでた女臈(じょうろう)」と呼ばれる。

 この屋敷では、夕刻六時に拍子木を打たない。無理に打つと、きっと怪事がある。これを「おむつどのに憚(はばか)る」という。
 「おむつどの」とは何者で、過去にいったい何があったのか。それを語れば長くなり、差し障りもあることだから、伏せておくとしよう。
あやしい古典文学 No.882