進藤寿伯『近世風聞・耳の垢』より

人面猫

 江戸神田紺屋町二丁目の塩物屋の飼い猫が、子を産んだ。
 家人は子猫を見て、ぞっと背筋が震え上がった。子猫の顔が、まったく人の顔だったのだ。
 谷中天王寺へ捨てようと、一人の者が出かけたが、その道すがら、どのようにしたのか、子猫はその人を噛み殺した。

 安政四年四月二十二日の事件として、公儀に訴えがあったと聞く。
あやしい古典文学 No.886