森春樹『蓬生談』巻之三「卵を呑む蛇の事」より

腹が裂けても

 田舎の家では、蛇が鶏小屋へ入って卵を呑むことがしょっちゅうある。
 毎日卵を飲まれて甚だ憤ったある大工が、白くて硬い木材を用いて卵の形を作り、卵白を塗って乾かしたのを鶏小屋に置いた。

 はたして蛇は偽卵を呑んだ。
 それから、いつものように古柱の貫孔を通って腹中の卵を割ろうとしたが、木だから割れるわけがない。それでも無理に向こうへ向こうへと這い進むにしたがって、腹が裂け破れた。
 蛇はついに命を落とした。卵を割ろうという一念の強さのあまり、腹が裂けていくのに気づかなかった。
あやしい古典文学 No.902