森春樹『蓬生談』巻之四「雷のおちて人をうつこと一様ならぬ事」より

落雷さまざま

 雷が落ちて人を害する様子は、さまざまである。

 七八十年前のことと聞くが、わが家の近くに住む浪人者が、二歳の男児を抱いているところに雷が落ちた。
 浪人は子を二間ばかり投げやって、腰の短刀を抜きかけた格好で死んだ。
 父親の機転で助かった男児は、庄手村の日隈というところの人が引き取って育てた。

 また、近年のこと、玖珠郡塚脇村の川向こうにある帆足村で、村人の女房が畑に出ているとき夕立に遭い、二歳の女児をおぶって急ぎ帰る途中、雷に打たれた。
 女児はなぜか背中から離れて無傷、母親は頭に傷を負って即死だった。

 肥後熊本の延壽寺の隠居の話によれば、寺へ日雇い仕事に来る男が便所に入っているとき、便所に雷が落ちた。
 男は全壊した便所を飛び出て、寺門を駆け抜け、三四軒先の薬種屋に入って、手に便所紙を握ったまま失神した。
 顔に水をかけ、薬を与えたりして、どうにか息を吹き返したけれども、それから二十日ばかりは、働くことができなかった。今はよくなって仕事に来ているとのことだ。

 これらは、なかなか一つの理屈では説明がつかない。
 そもそも雷は、一度鳴って二三箇所に落ちることもあり、雷鳴のみで落ちないこともある。雷気の集散の具合で違いが生ずるのだろうか。また、音だけ激しくて落雷しないのは、横にそれていくのだろうか。
あやしい古典文学 No.921