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森春樹『蓬生談』巻之四「速見郡湯ノ平の山上三池の中山下池霊ある事」より |
霊の棲む池 |
豊後ノ国 速見郡に湯平という温泉がある。 そこから山に登っていくと、三つの池がある。 一つは「立石の池」。水は浅くて澄んでいる。 その名のとおり、あたりの石がことごとく立ち、伏せているものは一つもない。さらに近くの山上には、垂直に立った高さ数十丈の岩塊がある。 「小田の池」は広くて、湖のようだ。 ここの水は田畑の用水に使われるので、旱魃のときにはなくなってしまう。 「山下の池」は、昔は広かったのだが、年々水が減って、今は小さい池になってしまった。 しかし底は深く、周囲は鬱蒼たる草木に覆われて、たいそう気味が悪い。かつて池の中だった湿地には、水辺に生える荻・葦・薄などが群生している。 その湿地はずいぶん広く、旅人が池を見ようと足を踏み入れると、風が吹き荒れ大雨が降る。よって湯平温泉には、「旅人 山下池見物無用」と書かれた制札が立っている。 地元の人であれば、池に飛来する鴨やおしどりを銃で撃ったりしても、何の障りもない。 ある人がおしどりを撃って、当たった獲物を取ろうとしたとき、あやまって銃を水中に落としてしまった。どうしようと困っていたら、姿のさだかでない何ものかが水底から銃を拾い上げ、黙って渡してくれたという。これは最近の出来事だ。 昔から山下の池には霊が棲むと言って、土地の者は願掛けなどもするそうだ。 |
あやしい古典文学 No.922 |
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