浅井了意『新語園』巻之八「猫活カヘリテ人死ス 稽神録」より

復活猫

 中国の建康という町の酢を売る商人が、一匹の猫を飼っていた。
 賢くて強い猫だったので、わが子のように可愛がって養育していたのだが、ある年の六月、猫は急な病で死んだ。

 商人は深く悲しみ嘆き、死骸を埋めるに忍びず、自分の座席の傍らに衣でくるんで置いていた。
 しかし、数日にして腐敗が進み、悪臭が室内に満ちたため、やむをえず、死骸を携えて秦淮河(しんわいが)のほとりへ行き、水中に投棄した。
 その途端、猫はにわかに生き返って、水上に浮かび泳いだ。
 商人は猫を助けようと我を忘れ、河へ飛び込んで、あえなく溺れ死んだ。猫は岸に這い上がり、走り去った。

 まもなく隣家の人が猫を捕らえて縛り、役所へ伴って事件の委細を報告した。
 その帰り道、猫は縄を噛み切って、人家の壁を乗り越え、何処へか逃げ去った。それきり、二度と姿を見ることはなかった。
 これは前世の恨みを報じたのではないかと、世の人々は語ったという。
あやしい古典文学 No.926