新井白石『白石先生紳書』巻九より

青い物を吐く

 大阪の陣のとき、越前の兵の一人が、戦闘に臨んで腰がへなへなになり、大豆畑の中に倒れこんだ。自分自身ふがいないと思って、豆の茎にすがって懸命に立とうとするのだが、立つことができず、青い物を吐いて這い伏した。
 のちに「まめばだけ」というあだ名をつけられ、家中の笑いものになったので、ついに出奔して行方知れずになった。

 また朝倉家の物語に、こんな話があった。
 人々が集まって碁を打っているとき、勝負のいざこざから双方が刀を抜いて振り回す騒動となった。皆で仲裁してことなきをえたが、騒ぎのさなか、座中の一人が激しく怯えて、青い水を吐いた、と。

 二つの話から思い当たる中国の記録がある。
 斉の大学生の魏準が、恐怖のあまり死んだとき、全身が真っ青になった。これは胆嚢が破裂したからだとされる。
 斉の永明十二年の出来事である。
あやしい古典文学 No.929