橘南谿『黄華堂医話』より

老いて角を生ず

 薩摩の国に、加世田という村がある。その村の百姓が、歳をとってから、これといった病気もしないのに、額が少しずつ盛り上がった。
 腫れ物だろうかと見ているうちに、そこから角が生え出て、三、四寸ばかり伸びた。
 『このまま生きながら鬼になってしまうのか』と、親戚じゅう驚いたり嘆いたりしたが、百日ばかりして、何ということなく角は落ちた。
 落ちた跡は、通常の腫れ物の跡と同じようになって、さしたることなく癒えた。
 角は、寺に納めたそうだ。
あやしい古典文学 No.932