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神谷養勇軒『新著聞集』第十二「息女ひとり幽像を見て忽ち死す」より |
手討の怨霊 |
戸川肥後守殿の息女の乳母が、料理人と密通していることが露見した。 御家の法度を犯したとして、まず料理人を斬ってから、乳母を呼び出した。 乳母は手討の現場を一目見るや、 「おのれ、よくも…」 と言いも果てず、死骸に抱きついて男の血をすすり、一息に天井へ吐きかけた。そこを、 「今だ、逃がすな」 斬り役が一太刀に討ちとめた。 その夜から、乳母と料理人の幽霊が出た。 幽霊は、幼い息女の目にだけ見えた。 一月後、息女は、肥後守殿に連れられて庭の池の辺りを歩いたとき、 「あっ、また乳母が来た。恐いよぉ」 と泣き喚き、そのまま倒れて死んでしまった。 幼子の命をとっても、まだ恨みが晴れないとみえて、以後も何かと怪しいことが起こった。 三年後のある夜、肥後守殿が蚊帳を吊って寝ていると、なんとなく身の毛がよだつ気がするので、ひそかに寝所を出て、別の間に隠れ、様子をうかがった。 暁ごろになって、例の二人が寝所の戸を開けて入ってきた。大勢の山伏が続いて入った。 山伏はみな憤怒の表情で立ち並んでいたが、やがていっせいに走り寄り、蚊帳の四方を切り落として、その上からさんざんに打ち叩き、斬りつけ、突き刺した。 二人の幽霊はそれを嬉しげに眺め、声をあげて笑って、帰っていった。 この夜をさかいに、、怪事はまったく止んだ。 |
あやしい古典文学 No.945 |
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