『訓蒙故事要言』巻之六「盗骸送家」より

隣家の亭主

 ある家が、息子に嫁を取るというので忙しさに取り紛れている隙に、夜、盗人が家の壁を切り破って入った。
 盗人は庭に大木の立ち木があるのを知らず、慌てふためいて駆け込み、木に衝突して引っくり返り、庭石で頭を打ち割って死んだ。
 物音を聞きつけた主人が、灯火をかざして見れば、盗人は隣家の亭主だった。
「おおい、大変だ。隣の野郎が泥棒に来て、勝手に死んでるよ。どうしよう、これ」
 困っている主人に、奥から出てきた妻が言った。
「お隣にありのまま話したら、かえって逆恨みされて面倒なことになりますね。わたしに、いい考えがあります。」
 そして、一つの葛籠(つづら)を持ち出して、中に死骸を入れ、隣の家の門前に置き、戸をトントンと叩いてから、走り帰った。

 やがて、隣家の女房が顔を出した。置かれた葛籠を見て、夫が盗んできたものだと合点し、ものも言わずに取り込んだ。
 その後、数日たっても夫が帰らないので、不審に思い、葛籠を開けてみたら、夫の死骸だったから驚いた。
 どうしたものかといろいろ考えたが、いい思案もない。こっそり死骸を埋めて、何事もなかったように振る舞った。
あやしい古典文学 No.947