和田烏江『異説まちまち』巻之一より

家光不食

 徳川家光公が、食欲不振がこうじて大病となった時、『だれであれ、公の前で大食いをすれば、それにつられて食がお進みになるのでは』ということで、志願者をつのったことがあった。

 御番衆の一人は、「枝柿を百」と言った。
 御前へ召し出して食べさせると、家光公がご覧になっているので畏まって、種ごと食べた。「種を取って食べるがよい」と伝えると種を取ったが、その種をやはり実と一緒に食べて、百個みな食い尽くした。
 別の者は、「キジを一羽、焼き鳥にして」と言ったので、キジを丸焼きにして出すと、残らず食った。
 この両名は、御褒美を下されたという。

 御坊主の一人は、「砂糖を一斤」と所望したが、半分ほど食ったところで挫折した。
 いいかげんな出来もしないことを申し上げたというので、改易か遠島の処罰を受けたらしい。
あやしい古典文学 No.950