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森田盛昌『続咄随筆』下「箪笥より出でし小女」より |
たんす娘 |
加賀藩が三代藩主前田光高公の治世だったころの話である。 金沢城の二の丸御殿で、ある夜、急に、御衣装を用意するようにとの命があった。 あいにく担当の奉行が宿下がりして不在だったため、宿直の脇田九兵衛が、横目付の千秋太郎左衛門に伝えて、御納戸へ向かわせた。 太郎左衛門が衣装箪笥の鎖錠を開け、引き出しを引いたところ、中から十一二歳の少女が飛び出して、太郎左衛門に抱きついた。 居合わせた者たちは大騒ぎしたが、太郎左衛門は少女を抱きとめたまま落ち着いていた。御衣装のことは他の者に任せ、自分は御次の間へ少女を抱いていって、人々に見せてから尋ねた。 「さて、おまえは、どこから来たのかな」 「わたしは、越中高岡の小馬出あたり、紺屋の次郎兵衛という者の娘です。今日の昼、見知らぬ人に、わけもわからず連れて来られました」 ただちに早飛脚を高岡へ遣わした。飛脚は途中で偶然、紺屋が金沢へ娘を尋ねによこした使いと出くわし、娘が失踪したのはたしかにその日の昼であること、その他委細を聞き取った。 飛脚が戻って詳しく報告したことにより、まぎれもなく紺屋次郎兵衛の娘とわかったので、少女は高岡からの使いに連れられて帰っていった。 光高公はこの話を聞いて、太郎左衛門の処置にたいそう感心し、 「驚き慌ててふるまえば、おろかな事故も起こりかねなかった。沈着にして思慮深い致し方、見事である」 と、褒美を下されたとのことである。 |
あやしい古典文学 No.952 |
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