人見蕉雨『黒甜瑣語』四編巻之五「蛇を食ふ」より

蛇を食う

 その昔、佐藤某とかいう人がいた。蛇が好きで、よく獲って食った。
 人に自慢したいときは、蛇の頭ばかりを集めて、酢味噌で和えて食うこともあったという。

 最近では、筆者の知人の松山某が、蛇そのほかの異物を食う。
 春や夏の野遊びには酒だけを携えて行き、肴になるようなものは持たない。現地でそこらにいる蛇を捉まえて調理する。蛇がいなければ、ナメクジ・カタツムリの類までも集めて、楽しく食する。
 ある友人が、
「わが家の守り神は一つの蛇で、時々祭ってある祠から這い出て遊ぶんだ」
と話したら、松山は、
「どうしてそいつを食わないのだ」
と言ったと、その場で聞いた人が笑って話してくれた。
あやしい古典文学 No.955