人見蕉雨『黒甜瑣語』初編巻之三「小女の夜啼」より

夜泣き

 古い記録によれば、秋田佐竹藩二代藩主義隆公のとき、小貫五左衛門という微禄の藩士がいた。
 小貫は、妻が幼い娘を残して死に、貧乏な上に頼れる親族もなかったので、ひとりで娘を養い育てた。
 宿直の夜も、娘を葛籠(つづら)に隠して城中へ連れて行った。同輩たちはそれを知りながら、彼の身の上に同情して、気づかぬ振りをしていた。

 あるとき、まだ四歳の娘が夜泣きする声が、義隆公の耳に届いた。
 さだめし厳しい糾問と重い処罰があるものと、みな戦々恐々としていたが、これといってお咎めはなく、
「娘が成長するまで、小貫の宿直を免除する」
とのお達しがあった。
あやしい古典文学 No.958