平尾魯遷『谷の響』五之巻「羽交に雄の頚を匿す」より

オスの首

 かつて、会田某という鉄砲の名手がいた。
 文政年間のあるとき、会田は八幡宮の林へ鳥撃ちに出かけて、鴛鴦(おしどり)を見つけ、一発で仕留めた。
 獲物を取りに行くと、弾が喉もとに当たったために、頚部で千切れていた。首が近くに見当たらないので、そのまま打ち捨てて帰った。

 翌年の同じころ、やはり八幡宮の林へ行って、鳥はいないかと眺めると、また鴛鴦がいたので撃ち留めた。
 取り上げて見ると雌鳥であったが、その羽の間には、骨ばかりになった鴛鴦の首が匿されていた。
 会田はふと前の年のことを思い出し、身内がぞくっと戦慄した。おぼえず冷や汗が流れ、とても鳥の肉を食う気になれなくて、屍をそっと埋めて帰った。

 会田はこの出来事を子供に語り、殺生撃ちを戒めた。よって会田家では、今もけっして鳥を撃たないとのことだ。
あやしい古典文学 No.960