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平尾魯遷『谷の響』三之巻「妖魅」より |
さむい息の女 |
板柳村の正林寺の次男にあたる僧が、若いころ、弘前の真行寺で修行していたときのことだ。 夜中に寝間の外から、なにやら物音が聞こえるので、障子の隙間から覗いてみると、やせ衰えた女が、髪を振り乱して立っていた。 亡霊が来たのだと思って、布団の中でじっとしていたところ、女は障子の破れ目から、繰り返し息を吹きかけてきた。その息が剃髪した頭に当たって、 うぅ、さむい…… 凍みこむ寒さは、あたかも雪を被ったかのようだった。 しばらくして止んだが、恐ろしさでまんじりともせずにいた。だいぶ時がたって、台所のほうから火を焚く光が見えたので、老僕がもう起き出たのだと思い、火に当たって気持ちを休めようと、帯を締めかけながら部屋を出た。 台所へ行くと、女が火を焚いていた。おどろ髪で見返った顔の物凄さに、正視できず「あっ!」と叫ぶと、そのまま火は消え、自分も倒れて気を失った。 明け方近くに老僕が起きてきて、若い僧が気絶しているのを見て大いに驚き騒ぎ、皆が手当てして蘇生させた。 僧は冷や汗を流しつつ怪事を語って、気分がすぐれず病みついたが、十日あまりして徐々に癒えた。 何の化け物だったのだろうか。その後、だれも見た者はいない。 |
あやしい古典文学 No.961 |
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