『天野政徳随筆』巻之一「■生翼」より

雨中の飛び物

 京都五条あたりの商人の家が、屋根の破損を修理しようと瓦師を雇って、屋根の上で瓦の欠けたところを繕わせた。
 七月の末のことだったが、にわかに雨風が激しく吹き荒れ、瓦師は屋根から下りられなくなった。
 そのとき、蹲った瓦師の顔近くを、音立てて飛ぶものがあった。恐ろしさのあまり、道具の金槌を振り回したら当たって、何かを地上に打ち落とした。
 雨が上がってから見ると、丈四尺ばかりの蛇で、胴の両脇から肉翅を生じたのが、頭をひどく打ち砕かれて死んでいた。翅の長さは四五寸あって、飛魚のひれにによく似た形だった。

 ある人が、「そんなものに化して何になるというのか、不可解だ」と、訝しみながら話したことである。
あやしい古典文学 No.964