『斉諧俗談』巻之三「火浣布」より

火鼠の布

 中国の書『神異経』にいう。
「辺境の地に大山がある。そこに生じる不尽の木は、昼夜ひたすら燃え続けている。暴風が吹いてもことさら猛火になることはなく、豪雨にあっても消えることはない。
 その火の中に重さが千斤もある大鼠が棲んでいる。体毛の長さは二尺あまり、細いこと糸のようで、火の中では真っ赤、火から出ると白い。水をかけると、鼠は死んでしまう。
 この鼠の毛を採り、織って布として用いる。布についた汚れは、火の中に投じて焼けば落ちる。」と。

 『本草綱目』には次のようにある。
「火鼠は、西域および南海火州で産出する。
 その地の山では、春夏に野火が起こり、秋冬に消失する。野火の中に生じるのが火鼠だ。甚だ大きな鼠で、その体毛を採って、草木の皮とともに布に織る。
 もし布が汚れたら、火で焼けば奇麗になる。これを『火浣布』という。」と。
あやしい古典文学 No.966