『聖城怪談録』下「町家の者山中道にて怪異に逢ふ事」より

三人組

 ある町人が山中温泉へ行って、帰り道は夕刻になった。
 あまだり淵というところに来かかったとき、三人の子供が近づいてきて、
「これは、よいところに人がいたよ」
と喜び騒いだ。
 子供たちは、そのまま後ろをつけてくるらしい。
 河南村にいたったとき、背後で「ワァッ!」と笑う声がしたから、さっきの子供だと思って振り返ったが、だれ一人いなかった。
 不思議さに首をひねり、だんだん気味悪くなったが、とにかくその村を通り過ぎて、ふと見ると、例の子供三人が、今度は前を歩いていた。
 町人はぞっとしながらも、『ただごとではない。怖気づいていては、このうえ何をされるか分からない。こっちが先手をとろう』と心に決めた。
 持っていた棒を振り上げ、三人とも打ち殺す勢いでずんずん近づいて話し声を聞けば、子供の声ではなく老婆の声である。
「さてもさても、ありがたい御法談じゃったのう。……」
 よく見れば化け物ではなく、このあたりの老女たちが近くの寺へ説法を聴きに参ったものらしい。
 先に見た子供三人組も、この老女たちを見間違えたのか、あるいは子供のほうは化け物で、町人を誑かしたのか。

「あやうく老女を棒で打ち据えるところだったが、少しの落ち着きが残っていたおかげで、人を傷つけずに済んだ」
 後に、町人が語ったそうだ。
あやしい古典文学 No.971