『聖城怪談録』下「坂井数右衛門畑山にて化ものに逢ふ事」より

掌の火

 坂井数右衛門はあるとき、畑山というところで木を伐り置き、夜になってから、その木を持ち帰るために、家来を連れて出かけた。
 畑山に上ると、向こうから青くて長い顔の者が、掌の中に火をともして来た。それを見るなり、家来は気絶して倒れた。
 数右衛門は豪胆で知られた男で、これは面白いと興味津々眺めていた。すると、火をともした者の後ろから同じような青く長い顔の者が来て、その火をふっと吹き消した。
 異人たちの姿は闇に消えた。

 数右衛門は少しも怖れなかった。
 予定どおり木を持ち帰りたかったが、家来が気絶して使いものにならない。やむをえず家来を背負って家へ帰った。
あやしい古典文学 No.976