『聖城怪談録』上「山井甚右衛門幽霊に逢ふ事」より

静かな同居人

 山井甚右衛門という人が、ある夜、自分の屋敷の居間で床に就いて、夜半ごろにふと目覚めると、剃りたての青々とした坊主頭の人物が、押入の戸を開けて現れて、そのまま戸外へ出て行った。
 甚右衛門も起き上がって、あとをついて行ったが、外へ出ると何者の姿もなかった。
 後日の夜半ごろには、前に見た風体の人物が、今度は外から入って押入に消えるのを見た。
 またある時は、屏風の上から頭を出したのを見た。

 そもそもこの屋敷は、山代泉光寺の隠居のものであった。
 隠居が死去して後、屋敷内に隠居の幽霊がたびたび出たので、屋敷を売りに出した。それを甚右衛門が買い求めて、改築して住んだのだった。
あやしい古典文学 No.987