『聖城怪談録』上「田丸兵庫宅のはふこ怪事の事」より

人形徘徊

 田丸兵庫という人の娘が、人形で遊んでいたところ、その人形がふと歩いた。
 まだ幼い娘は怪しみもせず、面白くて声をあげて笑った。
 家の者が、娘の独り笑いを不審に思って行ってみると、人形が歩いていた。畳一枚半ほど行って、ばったり倒れた。
 家じゅうが驚いて、祈祷などする騒ぎとなった。

 後日、いろりの灰に人形の足跡が見つかった。
 以来毎夜、足跡があるので、高名な僧を招いて祈ったが、全然効き目なかった。効かないどころか、ついには人形が屋根に上ったという。
 祈ってだめなら仕方がないと、問題の人形を神明の社へ納めたところ、それからは怪しいことが止んだそうだ。
あやしい古典文学 No.988