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平尾魯遷『合浦奇談』巻之二「光物」より |
古井戸の中 |
津軽に兄弟の者があって、兄は相内村に住み、弟は脇元村に住んでいた。 嘉永三年のこと、弟の夢に、一人の老人が枕元に立って言った。 「春比内にある古井戸の中に黄金が埋まっている。掘り出して金持ちになるがよい」 同じ夢を三日続けて見たので、相内村の兄に話した。 兄弟連れ立って春比内へ行き、井戸の底を密かに掘ったが、日が暮れるころになっても何も出てこなかった。 翌朝、また二人で掘り始めて、午前十時ごろ、いったん井戸から上がって一休みしていた。 そのとき、万雷のような轟音がした。一丸の火光が井戸から発して大空へ突き上がり、相内山中の四ツ滝のほうへまっしぐらに翔け去った。火光の直径三メートルばかり、一筋の白気の尾を引いていた。 兄弟は大いに怖れ、『妖物に騙された』と、もはや欲をかなぐり捨てて、一目散に各自の家へ逃げ帰った。 |
あやしい古典文学 No.990 |
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