『聖城怪談録』下「児玉仁右衛門狐の怪を見る事」より

踊る狐

 児玉仁右衛門はたいそう犬を好み、常に家で飼っていた。その犬は、何か異変があると必ず吠え立てるのだった。
 ある夜も、何事かは分からないがひどく吠えるので、仁右衛門は犬を外へ連れ出した。
 犬は先に立って福田村の道を行った。しかし途中で身を竦めて動かなくなった。
 仁右衛門が行く手を見ると、一匹の狐の姿があった。狐は二本足で立っていた。踊っているように見えた。
 犬が動けないので、仁右衛門は犬を乗り越えて進んだ。その勢いに励まされ、犬も歯噛みして前進した。
 狐はこれを見て、かなわじと思ったか、身を翻して逃げ失せた。

 同じころ、時枝勘右衛門宅で、夜、縁先の手水鉢のあたりに魚の内臓を捨てた。
 やがて、なにやら物音がするので、障子の隙間から外を覗くと、狐が六匹来て、かの魚の内臓を見て大喜びしているらしかった。
 躍り上がったり色々おかしな身振りで踊るのを、家の者はかわるがわる覗いて笑ったそうだ。
あやしい古典文学 No.994