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『梅翁随筆』巻之六「宝の箱を授りし事」より |
宝の箱 |
麻布あたりに、遠藤内記という神道者がいた。 あるとき内記は祈祷を頼まれて某所へ行ったが、屋敷内の様子を見るに、壮麗な御殿や楼閣が甍をつらね、それは絵にある中国の宮殿のような、いまだかつて見たことのない造りであった。 屋敷内に狂気した者があったのを、内記がたちどころに正気に戻したので、主人はたいそう喜んで、一つの箱を謝礼として呉れた。 「ささやかな品ではありますが、崇敬して大切にお持ちください。そうすれば、長寿も富貴も思いのままです。ただし、けっして蓋を開けてはなりません」 内記は箱を携えて家へ帰った。 帰ってみると、家じゅう総出で立ち騒いでいる最中だった。 「由緒ある筋から御符をもらい、また思いがけないところから贈答の金銀巻物が山のごとく届くのです。まだまだ続々と持ってきます。いったい何事でしょう。心当たりがありますか」 そういうことだったかと気づいた内記は、得意顔で髪を撫でながら大言した。 「今日からは毎日こんな具合だろうよ。不審に思うだろうが、わけがあるのだ。おまえたちはよくよく幸せ者だ。わしのおかげで安楽な身分になること請け合いだ」 ひっきりなしに届く贈り物は、とうとう家の中に置ききれなくなった。次第に夜も更けて皆くたびれたので、その後の使いには、明日また来るようにと断りを言って返し、種々の宝を積み上げた中で、家内一同が横になって眠った。 夜が明けて、集まった品々を見れば、宝など一つもなかった。 皆は、山のように積み重なった古菰、むしろ、鉄くず、瓦、木や竹の切れ端、馬の沓(くつ)など、ありとあらゆる汚らしい物に埋もれて寝ていたのである。 外聞が悪いので、普通にゴミを持ち出すように見せかけてこっそり捨てたが、あまりに大量なため、近隣の人々が不審がって、とうとう真相を聞き出したそうだ。 |
あやしい古典文学 No.1000 |
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