堀麦水『三州奇談』三之巻「埋物顕形」より

首塚のきのこ

 寺西霜台の屋敷に、いわくつきの塚がある。
 今から四代前の寺西家当主 若狭入道宗寛の時代、ある日ふと、寝所にひどく臭気が立ち込めた。
 近習に命じて室内を隅々まで探させたが何もなかった。しかし天井板を外して覗いたら、そこに一個の生首が見つかった。
 齢十四か十五くらいの、いかにも雅やかな若衆の首で、生きているかのように笑みを含むさまがまことに怪しい。
 なぜそんな首が天井裏にあったのか、見当もつかない。やむをえず屋敷の隅に埋めて、首塚と名づけ、桐の木を植えて墓標とした。

 その後、宝暦の初め頃、秋のなかば過ぎの白露のおりる季節に、首塚から愛らしい形の茸が生え出た。
 茎が二股に分かれているのを裂いてみたら、内に少年の顔が、彫り付けたかのごとく、目・耳・鼻・口すべて備わってあった。いろいろな人に尋ねたが、何なのか知る人はなかった。
 中国唐代の書『杜陽雑編』には、唐の文宗が蛤の中に完全な形の菩薩像を得たという記事があるが、人面の茸をまのあたりに見たのは、それ以上に不思議な話である。
あやしい古典文学 No.1002