浅井了意『新語園』巻之七「呂生妻為烏 宣室志」より

からす

 魯国の鄭というところに、呂生という人が住んでいた。呂生の妻の黄氏は、重い病で瀕死の床にあった。
 黄氏は、看病してくれる姑に、こう言い残して息を引き取った。
「もうすぐ私は死にます。死ねば死霊となるでしょう。残念なことに、死霊はこの世の人と心を通わすことが出来ません。それが生者をいっそう悲しませるのです。でも私は、死んでいく私のことを深く憐れんでくださるお義母さまのために、死んだら必ず夢に現れて、居場所をお教えします」

 まもなく姑の夢に黄氏が来て、泣きながら告げた。
「幸薄い生涯を生きた私でしたが、死んで今度は異類になりました。鄭の東の野原で、烏として生まれたのです。林に棲む多くの烏の中で、とりわけ黒く艶やかな翼を持って、ガァガァと鳴きたてているのが私です。今から七日の後、お義母さまに逢いに行きます。異類の姿をしていても、どうか私だと思ってください」
 言い終わって去っていくと同時に、夢は醒めた。

 七日目の日、はたして一羽の烏が東の方角から飛んできて、呂生の家の庭の木に止まり、悲しげに鳴き続けた。
 それを聞いて、姑は泣きながら庭に出た。
「ああ、夢に見たとおりだわ。おまえ、今も人の心があるならば、すぐに家へお入りなさい」
 烏は枝を離れて家に入り、屋内を飛び回って、憐れをもよおす声で鳴いた。食べ物を与えると、少しだけ食べて、やがて東をさして飛び去った。
あやしい古典文学 No.1005