源顕兼『古事談』巻之一「称徳天皇と道鏡の事」より

小手尼

 称徳天皇は、陰茎の長大な道鏡を愛人としていたが、もうちょっと大きいほうがいいような気がして、みずから薯蕷(やまのいも)を削って、大いなる男根の形を製作した。
 それを用いたところ、膣の中で折れてとれなくなり、やがて腫れ上がって大病となった。

 百済から来た女医で、手が赤子のように小さい「小手尼」という者が、天皇を診察した。
「大丈夫、治りますよ」
 彼女は請け合って、手に油を塗り、薯蕷を掘り出そうとした。
 まさにそのとき、権臣の藤原百川(ふじわらのももかわ)が、
「なにをする、妖狐め!」
と叫んで剣を抜き、小手尼の利き腕の肩に切りつけた。
 これによって天皇は、病が癒えることなく崩御した。
あやしい古典文学 No.1010