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浅井了意『新語園』巻之八「金牛岡 湘中記」より |
金牛岡 |
金牛岡は、中国の長沙の西南にある。 漢の武帝の時代、一人の農夫が赤牛を牽いて歩いていた。 その農夫が、河を行く漁師の舟を見て、声をかけた。 「その舟に乗せてくれ。向こう岸へ渡してくれ」 漁師は応えた。 「この舟は小さいんだよ。牛と人を乗せたら、沈んでしまう」 けれども農夫は、 「いいから乗せてくれ。その舟は小さくないし、わしらは重くない。だいじょうぶだ」 それで漁師は、不審に思いながらも岸に舟を寄せて、乗せてやった。 河の真ん中辺りに来たとき、牛が舟の中にどっさり糞をたれると、農夫は平然として言った。 「この糞は船賃だよ」 やがて向こう岸に着いた。農夫は、舟を汚されて怒る漁師を尻目に、牛を牽いて歩み去った。 漁師は仕方なく、糞を竿で払って水中に棄てた。あらかた棄てたところで、それが金であるのに気づいた。 残りを拾って町の市場へ行き、物品に換えて、漁師は大もうけした。 牛を牽いた農夫は、やがて山へ入った。 人々が追いかけていくと、農夫と牛は地中に沈み込んだ。 あわてて地面を掘ったが、どんどん沈んで、彼らを掘り出すことはできなかった。 その掘った場所を「金牛岡」というのである。 |
あやしい古典文学 No.1013 |
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