『聖城怪談録』上「逢坂清右衛門の火玉に逢ふ事」より

飛び歩く火玉

 逢坂清右衛門という足軽がいた。
 大聖寺永町の祭礼の日、そのあたりの知人宅を訪ね、夜半に帰路につき、途中、紺屋冶右衛門という人のところへ寄って提灯を借りた。
 その提灯の火が、弓町の中ほどでふっつり消えた。消えた提灯を持って荒町の木戸近くまで来ると、二ツ屋町の方角に火が見えた。
 清右衛門は、『いつも十一町から火玉が出て、あちこち飛び歩くと聞く。あれにちがいない』と思いながら、鉄砲町に至った。

 火は、後ろからついてきた。不思議に思って、傍らの杉垣の間に身を隠していると、目の前を火が行き過ぎた。
 間近で火を見るに、火玉の中に腰から下のない男と女の形があった。
 驚いて思わず声をあげ、隠れ場所から飛び出した。すると火は素早く後戻りし、鉄砲町の端にとどまった。
あやしい古典文学 No.1017