浅井了意『新語園』巻之八「狼説 白沢図」より

知女

 狼は、百歳を経ると、化して女子となる。
 それを名づけて「知女」といい、人の女の形で路傍に立って、男が通ると哀れみを乞い、巧みに気をひく。
 もしその男の妻になったら、三年後には必ず夫を食って失踪する。
 男が気づいて「おまえは知女だ」と指摘すると、たちまち逃げ去るという。

 そもそも狼は、犬ほどの大きさの地味な毛色の生き物だが、ひとたび吠えるときは、全身の穴から熱気が噴き出す。
 北方の地方に多く、棲処はほら穴である。頭部の形が鋭く、鼻先は尖っている。頬の毛が白く、脚は長くない。体毛は黄と白黒の雑色のものや、蒼灰色のものがある。
 よく小児の泣き声を真似て、人を誘い寄せる。
 糞を烽燧(のろし)に焚くと、煙は真っ直ぐ上がって、けっして傾かない。その先端は天空の北斗星に正対する。
あやしい古典文学 No.1021